木材が燃える条件とは?
‘温もりを感じる’は、木材が内装材料に選ばれる、ひとつの理由になっています。木材は、材料の温まりにくさの指標である熱慣性が低い材料であることが温もりを感じる理由ですが、一方で鋼材やコンクリートと比較すると、熱感性の低い木材は、着火しやすい材料であるため、着火には十分配慮することが求められます。
火種があって火がつく現象を引火、火種がなくても火がつく現象を発火といい、両方の現象を含めて着火といいます。では木材は、どのような条件で着火するのでしょうか。
「住宅の内装防火設計マニュアル」(日本建築センター」によれば、短期に加熱する熱源に対しては、木材の表面温度が260℃に達した時点、または受熱強度が10kW/m2に達した時点、長期かつ連続的に加熱する下弦に対しては、木材の表面温度が100℃に達した時点、受熱強度が1.23kW/m2に達した時点となっています。
熱源による輻射エネルギー(Eb)は、下記の式で求められます。
ここでTは温度(K)、σはStafan-Boltzmann係数で5.667E-11(kW/m2K4)
熱源の温度が500℃(=773K)であった場合には、20.23kWとなります。この熱源に対面する木材が受ける受熱強度は、その熱源の形状および大きさと熱源からの距離によって決まる形態係数を熱源の輻射エネルギー乗じることによって求めることができます。仮に熱源の形状が円形で直径は1m、熱源からの距離が1m離れている場合には、形態係数は0.2、受熱強度は4.0kW程度となり、短期の加熱であれば着火には至りませんが、長期かつ連続的な加熱を受けると着火の危険性を考える必要があることになります。
なぜ木材の表面は変色するの?
木材を屋外に晒すと、やがて表面が白色化することがあります。これは木材が太陽の紫外線を吸収しておこる現象で、その後、カビや大気汚染物質の影響で徐々に灰色化し、やがて暗灰色に変わっていきます。これは乾燥や紫外線に抵抗力のあるカビ類が繁殖し、降雨等により湿潤してカビの胞子が木材表面で成長するとおこる現象です。このような現象を気象劣化といい、木材強度への直接の影響はありませんが、変色や毛羽立ちは美観を損ない、表層の割れは、放置すると腐朽に発展することもあります。
外部に使用される木材の塗料には、どのようなものがある?
塗装は、気象劣化抑制を目的に、一般的に採用されている方法で、隠蔽性の高いタイプと木目の見える半透明タイプとに大別されます。
隠蔽タイプの塗装には、油性調合ペイント、合成樹脂調合ペイントやフタル酸樹脂塗料等があり、紫外線を遮断する能力や水分の侵入を防ぐ能力が高いことから、欧米では広く使われていますが、木材特有の木目や肌触り感が損なわれることから、国内では避けられる傾向にあるようです。
国内で多用されているのが、半透明タイプの木材保存塗料です。木材保存塗料を塗膜形成で分類すると、木材中に浸透する含侵形塗料と、塗膜をつくる造膜形塗料、およびある程度木材中に浸透しながら薄い塗膜をつくる半造膜形塗料の3種類に分類することができます。塗装面の耐候性は、造膜形の方が含侵形よりも優れていますが、メンテナンス性では、含侵形や半造膜形は直に重ね塗りが可能であるのに対し、造膜形は旧塗膜を除去する必要があるなど煩雑になってしまいます。また造膜形は厚塗りすると、塗膜の膨れや亀裂、塗膜下の木材の蒸れや腐れなどのトラブルに進展するため、塗布量に注意が必要になりますが、含侵形は木材表面への塗料の塗布量が多ければ耐候性は向上します。ただし、木材の表面をプレーナー等により平滑化した場合、厚塗りして塗布量を増加しても、撥水性維持効果は向上しますが、変色抑制効果は向上せず、一方で帯鋸によるラフソーン仕上げされた木材表面に厚塗りして塗布量を増加した場合には、撥水性維持効果に加え、変色抑制効果も向上するという報告もあり、木材表面の素地調整の重要性が伺えます。
塗料の色調で木材保存塗料を分類すると、木材の色調及び木目が見える「透明系」、着色されているが下地の木目が見える「半透明系」、着色により木目が見えない「着色系」に分けられ、塗料の色調による紫外線の遮蔽効果が異なるため、耐候性は、着色系、半透明系、透明系の順になります。透明系は1年程度の耐候性しかないため、屋外使用では、頻繁にメンテナンスできる場合以外は、使用を避けるべきです。
もっと詳しいことが知りたい方は、下記を是非、調べていただけると幸いです。
1) 片岡厚:住宅と木材Vol.37 No.435,pp20~pp23,2014
2) 木口実:外装木材の塗装処理と維持管理,日本木材保存協会:木材保存Vol.42-3,pp151~pp156,2016
木造建築物は何年、大丈夫?
歴史的木造建築物を見ると、木造建築物は1000年は持つと言え、一方で、20年で腐朽した木造建物が見られるのも事実です。
耐久性という観点で考えると、腐朽菌による腐朽とシロアリによる蟻害に対して、どのような対応ができているかがポイントになると言えます。
歴史的木造建造物が長持ちしている理由は、下記の3点。
1,雨掛かりに対して、十分な配慮がなされている。寺社仏閣に見られる飛檐垂木や桔木、枓栱は、いかに軒の出を長くするかを考慮して生まれた古の賢者の技術。
2,屋外・室内の温度差がない環境・風通しがいい環境になっており、結露が生じにくい、また仮に濡れたとしても短時間で乾く条件が整っている。
3、定期的にメンテナンスがされている。法隆寺も西岡常一さんに代表される宮大工さんにより、継続してメンテナンス工事が行われてきた。
腐朽と蟻害は、栄養分である木材と酸素と水、および適温の条件が整ったときに発生します。上記1,2は、水への対応が、1については意図的に、2については意図ではないができていたということではないでしょうか。現在の木造建築物は、断熱性・気密性が問われているわけですので、雨掛かりの他、結露に対する配慮が重要になってくることがうかがえます。
よって木造建築物はどのくらい持つのか?は、設計者のノウハウが、決め手のひとつであると言えます。
天然乾燥 Vs 人工乾燥
天然乾燥材と人工乾燥材のどちらがいいのかは、両者、一長一短ではないでしょうか。
どちらにせよ、含水率が高ければ、腐朽・蟻害を生じやすくなり、その材料が乾燥収縮すれば、内断熱の場合、結露発生の要因になりえますので、木材の乾燥は「エチケット」→「ルール」。
人工乾燥で重要なのは、その樹種、断面サイズ、初期含水率の状況等を踏まえ、適切な乾燥スケジュールで実施すること。
確かに、かつて長い高温域で乾燥した木材の品質は、かなり悪いものでした。20年くらい前のカラマツの製材では、耐久性にも影響があると報告がありました。一定の温度以上になると、ある意味 炭水化物ですので、木材成分が変性することは必定なため、あまり高い温度で、長期間乾燥することは避ける必要があり、プレーナーかけしても、仕上がり面が黒くなっている、あるいはあまりに木材が焦げ臭くなってしまうような乾燥スケジュールは、見直す必要があります。しかし板であれば低温域での乾燥で問題なく乾燥できますが、在来軸組工法の住宅で使われる構造材料については、特に芯持材の場合には、短時間、高い温度で乾燥することが表面割れ防止に有効で、その’程度’が重要なノウハウになります。
残念ながら、少しでも乾燥スケジュールに高温での乾燥が含まれていると「高温乾燥材」というネーミングで、昔の悪い品質のイメージを持たれたままの方も多くいらっしゃいますが、科学的根拠に裏付けられた進化した技術もあることは、多くの木材関連企業の経営者・技術者、そして設計者に知っていただきたいと日頃感じていて、今回はその部分にも少し触れてお話しさせていただいた次第です。
2025年より、建築物省エネ法で対象となる建物の範囲が広くなります。時代の変化と共に、市場で求められるニーズにマッチする’木材の供給体制・品質管理’が 整うことを期待しています。