令和3年度「民間部門主導の木造公共建築物等整備推進事業」第3回WSは・・・


 2021年度、令和4年1月27日(木) に開催させていただきました。残念ながら新型コロナ・オミクロン株蔓延のため、リモート型の開催となってしまいましたが、41名の方にご参加いただきました。

お招きした講師は、芝浦工業大学名誉教授の三井所先生。タイトルは

「地域産材を用いた木造建築を地域の力で実現する」

 昭和以降の日本の木造建築の歴史から日本ならではの木造建築の実現に向けた取り組みや工法開発などの歴史を自ら手掛けられた実例や建築例をご紹介いただきながらお話しいただきました。また、地域の力を結集してノウハウを合体すれば地域材でも立派な建築ができるということを教えていただきました。

 ご講演の後、当会のこれまでの活動の報告と、第一回、第二回のWSでの議論を踏まえ、第一回WSで提案のあった「3つのつくる」に加え、地域材を使った木遣いを実践するためには、「仲間をつくる」ことも重要であることを、会の方から提案!その後、参加いただいた皆様から、様々な意見をいただきました。

松留先生(職業能力開発総合大学校能力開発院、名誉教授):なるほどと思ったのは、地域材を利用して木造化を推し進めていくためには、色んな人材がいるが、ここにはJAS工場もある、加工も出来るということで、山口県では、つくるものが動けば地域産材を中心にした中大規模の木造建築はつくれるような人材は揃っていると感じた。ネットワークをつくるのがとても大事で、どういう形で意見交換して意思統一しながら発注してつくっていくか。具体的に動き始めると細かいことがたくさんあるが、みんなで力を合わせてネットワークを作っていけば、山口県ではできると思った。川上から川下まで、皆が同じ席で意見交換して本音を語り合い、状況を認識していってやれるような場所を作り、機会を続けていくことがとても大事だと思う。その中で、こういう形でやるという事例をこのグループで作ってみるととても良いと思う。

三井所先生:日本海側の長門には行ったことがあるので市役所の話も存じている。広葉樹をどう活かすかという動きも知っているが、佐波川流域については知見がなかった。今日の話はいろんな可能性について話したつもりだが、佐波川に限定して有効な話をするにはもう少し佐波川流域の状況を知る必要があると思った。また、協議会で話をしたが、仲間を作るという4番目の話。一緒に課題を見つけて認識し、新しい社会をつくっていくための話し合いを本気でやらないといけない。木の方から作っていくという社会づくりは1つの具体的な作り方なので、方法が見えてくると他の筋からも社会づくりというのが生まれてくるので、是非木に関連する事業者、事業をする人も含めて森に対する認識を共有していくような議論をしていくと良いと思った。戦後続けてきた1つの道を追ってきたところから大きくカーブして新しい社会をつくらないといけない時代になっている。グローバル社会が進んでいるので、think global、act localという言葉があるが、世界を知りながら自分たちはこうするというのをしっかり考えていくことが必要だと思う。そのためには、ウッドショックにより物を考えるのに貴重な時期を過ごしていると思うが、木の値段を1つの仮定とし、皆が生きていくという前提のもとにそれぞれの金のかかり方について再整理するころが重要である。2013年に藻谷浩介氏が出した本「里山資本主義」にヒントがたくさん書いてある。自分たちならこうするという意識を持ちながら1つ1つの事例について取り入れるべき点を分析し議論すると良いと思う。

Mさん(元山口県建築士会会長):長門市の市役所庁舎のプロポーザルの委員長をやった時、市長からのトップダウンにより木造で造ろうという話があった。市の職員と話をした時、長門市が田舎だから木造でつくるのか、と言われた。これからは木造がトレンドだと説得するのに時間がかかった。発注者が大きな力を持っている。山口県は新しいことが好きだから、木造でつくることが新しいことだというのが必要だと思う。また、相手が困っていることを理解することが重要であり、「地元の工務店でできる」と言うことによって木造でたくさんできた。建築的な難しい話をするのではなく、消費者、地元の人たちが理解する手法を研究すればよい。

Oさん(設計者):木造について理解していないので、この機会に勉強したいと思って参加した。木造は集成材のイメージが強かったが、研究会に参加して、在来の材料を使って大空間ができるのだとわかってきたので、今後興味をもっていきたいと思う。

Kさん(行政):研究会の皆さんが令和3年度にこの事業でワークショップを開いていただいたことは、とても運が良かった。県としても、国の過渡期であり方向転換の年度になったのでとても参考になっている。木材利用関係の法律が変わり、建築一般のもの全てが木造にということで方向転換されたことを受けて、県でもちょうどパブコメが終わったところである。3月の改正に合わせて、今まで公共建築物のみ木造を推進してきたが、林業部門、木材を利用する部門、施設をつくるであろう部署、土木の材料を使うであろう土木関係の25課でこの10年間会議を続けてきた。それに合わせて山口県には4流域あり、市・町・県・森林組合と川上中心ではあるが話し合いを行う場があった。今度から民間も関わってくるので、来年度からはこの組織が変わらなければならず、このワークショップで話し合われていることを活かして、話し合われる場については、今まで川上から川中までの話し合いの場、川中から川下の話し合いの場はあっても、川上から川下までの協議会はあまりなかったので、そこまで膨らませたものにする予定であり、皆さんのご意見を活かしたいと思っている。来年度の予算は3月にならないとわからないが、皆さんのご意見を聞きながら木材利用の部分で新規事業を立ち上げるよう頑張っているので、お知らせできるようになれば紹介したい。

Oさん(コンサルタント):タイミングが良かったとのこと。これまで小規模の協議会が連携すれば、少し大きな協議会になる。川上から川下まですべてそろった話し合いの場ができればよいというご発言であった。来年度に向けた県の予算がうまくいけば、そういう流れを県の方からも作っていただけるということではないか。予算化を頑張っていただいて朗報をお待ちしたい。

Kさん(協同組合):初めて参加。非常に充実した内容で感心している。昨年11月、国土交通省と日本建築士会連合会が「建築物木材利用促進協定」を締結した。中大規模の木造建築の普及に関する人材育成の推進を目的とする。具体的な取り組みは、中大規模木造設計セミナーの開催、木の建築賞の実施、川上から川下までが連携した木造建築技術者の育成。新年度頃から動き始めるのではないか。建築士の立場から言うと、中大規模の木造建築物をつくるにあたって課題が2つあると思う。1つは技術的な課題。山口県にはある程度の規模の木造建築物があるが、実績や経験が少ないので、技術的な講習会やセミナーを中央の方でやっていただき、参加できれば勉強できるのではないか。技術的な情報がまだ地方では不足している。もう1つは木造の材料的な情報が不足している。どの程度の木材をどのくらい提供してもらえるか、どの程度のコストか、というような情報が不足しており木構造に手が出せない。今後の木材供給側からの情報を川上側の情報としてどうすれば得られるかというのが1つの課題。木材の仕様については設計者、施工会社それぞれが情報を提供しないと木造建築をつくろうということにはならないだろう。そういう意味では、協議会の中で供給側、設計者、オーナーが連携を取って情報交換するのが大事だと思う。どこでどういう人と話せばどういう情報が得られるという整理をして提供いただきたい。

Oさん(コンサルタント):木造建築に関する理解を深めるための情報と材料供給側からの情報を設計者や施工者にまで行き渡るような形での流通。そのための幅広い協議会という事での情報共有という話であったと思う。佐波川の森を守る木造建築研究会でも、相談窓口をつくるということも検討課題に挙げられている。技術情報や木材調達情報、技術的なことやどういった工夫が必要かということも含めて相談にのれるような窓口をつくっていこうという話が出ているので、うまく回り始めればお話しいただいたようなことが少しずつ実現していくのではないか。

Mさん(設計者):下関の状況に限られるが、行政サイドに木材に対する認識が薄い。材料の供給がどのように連携できるかというところである。行政において、川上の知識としてこういうものを作るにあたり材料の供給が可能かといったことを詰められれば、設計サイドとしてはそれに応じる体制は取れるのではないか。川上と事業主がどういう考えを持っておられるかを詰めていかないといけない。我々も行政の方に木材の活用を促していかないといけない。下関は行政が強く我々の話をあまり聞き入れてくれないところがある。下関にも設計事務所の会があり、それを通じて行政にアピールしていこうという思いはある。会長にも話し合いで行政にお願いしていこうかという段取りは付けている状況。

Oさん(コンサルタント):発注者側の木造に対する認識が薄いので、木造でやろうという意思決定が行われるように設計業界からも働きかけていく必要があるということであった。行政と川上との結びつきが弱いという指摘があったが、発注にあたっては材料元の川上と連携しないと地域材を調達できない。県の話によれば、県と川上・川中まではこれまで話し合う機会を設けているということであったが、市町は発注者としてそこに絡めておらず、川上と情報を共有できていないのではないか。

Mさん(設計者):その辺りの結びつきがうまくいっていないのではないか。大分県の中津や熊本県、宮崎県辺りは林業関係との結びつきが良いので材料供給が可能になっているのではないか。下関市では県西部であり、木材の供給には分離発注の形を取らないと不可能ではないか。材料を確保して設計するとしても、設計段階になって必要な材料についての要望が出てくる場合がある。まとまった規模の物を計画する場合、必要な材料については大きな余地が必要になる。鉄やコンクリートの場合は供給体制が整っておりその心配はない。木材は材料を揃えるのに伐採や乾燥などいろんな手順を要することを踏まえて計画しないといけない。

三井所先生:佐波川の森を守る木造建築研究会の方から意見が出ると良い。下関市は木材生産地よりも消費地であり、使用する木材は他地域から入れる必要がある。森林環境税や森林環境譲与税の交付金は森の無い地域でも使うことができる。ほとんど山が無い川崎市では、他の林産地と提携して学校建築の木造建築・木質化を行っており、同様な動きは下関市内でも可能であろう。上津江村の輪掛けで天然乾燥した写真をお見せしたが、ここでは下関市の会社が年間を通じて材木を入手できる契約を結んでいる。以前に状況を聞いた際、市場に九州を含むことから木材は九州から入手しているとのことであった。大分県では森林組合長が県会議員、議長となっており、森林組合の人が頑張れる状況にある。政治的に頑張れる人を作ることも重要であろう。

Mさん(設計者)長門市では、市長が木材使用に積極的であることが実現化の背景にあった。

Mさん(元建築士会)ビジネスとして捉えると、川上ではビジネスが成立していないのに対し、川下では技術を売ることができる。川上でビジネスが成立するようなシステムを考える必要がある。

Oさん(コンサルタント):川上でビジネスが成り立っていない状況は重要な課題である。その要因の一つとして、供給側と使用者側の間で情報が途切れることが考えられる。協議会が川上・川中・川下の連携を進めていけば、情報が途切れることの問題やその解決策も見えてくる可能性がある。特に、川上では使う側のニーズをビジネスとして捉えることができるかが課題となるだろう。行政と川上の関係について欅尾氏からご発言いただきたい。

Kさん(行政):補足すると、県の林業部門は森林組合との間で話し合いを行っており、川上での話し合いはしてある。ただし、山口県内は小規模な所有者が多いためにまとまった供給が難しい。また、九州ではさし木で育てるために同質木材の大量入手が可能であるのに対し、山口県では種から植えて育てるために性質にばらつきがあり、伐採等のコスト負担が大きい。少しでも低コストで出していけるように取り組んでいくのでご理解いただきたい。山口県内は全体に中山間地があり、どこでも出していける強みがある。山口県森林組合の共販所も4流域程度ある。下関・長門地区には、今まで会社が行っている所が1つあったが、数年後に新しい共販所が西部にできるので、供給力が期待されている。山口県森林組合連合会と大林産業とで協定が結ばれて年間生産量が確定しているので、山側は頑張って出すように努力していきたい。

Mさん(設計者):林業として成り立っていないのが現実であろう。かつての時代から安価な外材が輸入されるようになってから林業従事者が減少し一旦途絶えたことが大きな問題点になっているのではないか。

Oさん(コンサルタント):そういう側面は非常に大きく日本の林業全般に言える話である。これからの林業を組み立て直していくことが必要になる。そのためにも、まず川上から川下までの連携が最重要課題ではないか。川上から川下まで連携して何ができるのか、少しずつ課題を解決していくためにも話し合いの場(仲間)が必要であろう。

Hさん(建設業):わが社では、以前は山口県の木を使っていたが、天然乾燥の木材が県内では不足してきたため、大分県のトライウッドを用いている。当初は低温乾燥の木材を用いていたが、途中から天然乾燥木材に切り替えた。輸送費はかかっているので、山口県で天然乾燥材を供給できるのであれば利用する意思はある。

三井所先生:製材価格は関税が掛けられておらず世界的な競争に晒されている。グローバルな活動をする工務店や建設会社ではこれまで安価な海外木材が選択されてきていた。近年のウッドショックにより安価な木材が手に入らなくなるとローカルな製材所へ高額での発注が出てきている。しかし、そこでは供給量や供給先、製品の質が限定されるため応じられない。大量の発注に応じるには乾燥機材の投資やJAS工場化等が必要になるが、将来外材が安価に戻ることを考えれば安易には投資できない。それでも高い価格が安定的に継続している状況を踏まえて問題解決に何ができるのか。また、価格低下した際でも健全なビジネスとして成立するために何が必要か。山を維持するためにどういう投資が適切か、投資による成長分を使いながら山を維持管理できるのか。こうした話を皆で共有化していくと、ある程度高い価格を皆で了解するのが里山資本主義の基本である。グローバルな経済合理性を最優先してはこれからの社会は作れないことを理解して話を進めるべきである。

Oさん(製材業):本日、木材の乾燥に関する講習に参加してきた。今後、杉の付加価値を高め利用されるためには杉の梁桁材として利用されることが有効であり、そのためにはどういった乾燥方法が良いのか、乾燥方法のメリットやデメリット等について講習があった。天然乾燥である程度含水率を落とすには14か月、中温乾燥では1か月、高温乾燥では10日かかる。その中で、表面割れや内部割れを減らしながらも強度を保ち、含水率を落とせるかという研究結果を話していただいた。製材工場としては、設計士や工務店が安心して使えるために良い材料が提供できるかを、乾燥方法を含めて研究努力しているので、また、情報提供の機会をもっていきたい。

Oさん(コンサルタント):まさしくこのような話題が情報連携の対象として重要である。先だっての幹事会では、佐波川流域だけのような地域限定では活動の継続が難しいことが指摘され、県全域を対象とした取り組みが必要であること、補助金頼みでなく自立することで長く続く組織とすることが重要であることなどが挙げられた。自分達で運営できる体制とするには、自分達が組織設立の役割を一部担う覚悟が必要であろうという意見もあった。本日の資料の最終ページに、今日話題となっている協議会といろいろな方々との連携や仲間づくりなど、ネットワークをどうやって作っていくかという話である。この資料は、これまでのワークショップ等で得られた知見から勝手に構想・イメージとして整理したものである。今日ご参加のどなたにも合意を得たものではなく、たたき台として作成した。資料では、今日話をした4つの流域で川上から川下まで行政を含めて連携する必要があることを示している。内田先生から、ベーシックな単位として4流域ごとの単位は必要であろうとのアドバイスを戴いた。佐波川流域はこの中で中央地域協議会に属している。また、流域単位で連携し協議したものを統合し全県で取り組む課題に対応する全県組織を設け、その中で専門領域での各部会では横並びで見た課題に取り組むことを想定している。こうした構想を、来年度に向けて取り組んでいければ良いのではないか。

Uさん(設計者):通常は自分達以外の所がどうなっているかはわからないので、隣の蛸壺がわかるためには情報をどのように共有化するのかが重要であり、そのためにコーディネート可能な組織が必要である。山口県には原田浩司さんという最適な人材がいて夫々を緩やかにつないでいける。木造はそれぞれの情報を早めに出し合い受注前に動いて相談できるような所が必要であり、県の力も借りて緩やかなプラットフォームを設けてコーディネーターがいると良い。そのような組織が立ち上がると、木造をやってみようという人が増えるであろう。あまり固めず、大きな目標を県で定めて、それぞれの分野でやっていることをつないでいけるような組織や場ができると良いと考えている。

Oさん(コンサルタント):こういった動きは研究会だけで決める話ではなく、県や行政団体の方々、建築業界をはじめ金融関係まで色々な業界の方々が参画する必要がある。協議会づくりには手間と時間がかかるが、大きな方向性については、引き続きこの問題に取り組んでいこうという意思が確認できたのように思う。

事務局H:70年前にできた木造のザビエル聖堂が焼失して20年経つが、今ならこれを木造で再建しようという話が出るであろう。こういった計画が上がってくると、皆が集まってやらないとできないものなので、こういったチャンスを与えていただけたら、それを無駄にせず、また、一過性でないようにすべきであり、地元に何も残らないようなことは避けたい。一つのチャンスをいただけること、そしてそれを皆の力で活かすことができればと思う。

松留先生:山口県は人材が揃っている。全部揃ってネットワークを作り継続してもらいたい。皆でプロジェクトをやっていきましょう。できると思う。

三井所先生:建築士会の活動をしていて、頼りになる相棒は全木連であった。木材流通に絡みながら事業をされている方々と建築士会が連携して幅広く関われるような組織ができると良い。埼玉県や愛知県では既に成功している。また、佐賀県でもうまくいきつつある。県木協等と建築士会等の2種類の団体が連携をちゃんとして、幅広く繋がるような結びつきをしてもらうための縁の下の力持ちを継続していってもらいたい。

 様々なご意見・ご指導をいただき、導いた結論は・・・

地域材を活用して木造建築物を創っていくため、連携ができるプラットフォームづくりを進めていこう


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