佐波川の森を守る木造建築研究会では、林野庁補助授業「地域における非住宅木造建築物整備推進事業」を活用し、第一回WSを開催いたしました。今回のテーマは「構造用製材の品質管理術(含水率と機械等級区分)」。講師には木材の乾燥および木材強度の第一人者である河崎弥生氏と、池田元吉氏をお招きし、木材乾燥の基礎的なお話、水分計および機械等級区分に使用する機器の仕組み、使い方を、座学だけではなく、県内最大のJAS機械等級区分の認証を取得している大林産業株式会社本社工場に場所を移し、実戦形式にて講義が行われました。
参加者は、佐波川の森を守る木造建築研究会の会員および会員の呼びかけにより集まっていただいた方々、20名。FFTアナライザーを使った動的ヤング係数の計測では、その容易さに感心された方、水分計の使い方講座では、これまで間違った使い方をしていたことに気づいた参加者の方も多数、いらっしゃったとようです。また丸太段階でのヤング係数の計測の方法や有効性についての質問もなされ、参加者の方々にとって、非常に有意義な場となったようです。
WS終了後、木造発信基地「KAZAGURUMA」にて、講師を交え、昼間の時間ではできなかった含水率管理等について技術的な話し合いの場が設けられました。また県の林業研究センターにて全乾法試験をされていることもわかり、今後の県内における木質建材の品質管理の中心的役割を担っていただけるのではないかと期待が膨らみます。
以下、WSの際のQ&A
【質問】乾燥前の切った直後の原木と乾燥後の原木とで強度に変動があるのか。(Kさん)
・現地で製材した段階では一旦強度は下がるが乾燥したら戻ると池田さんは言われていた。(司会)
・伐採からあまり時間が経っていない丸太を製材すると材質がいいものはちょっと強度が下がるが、乾燥すると少し強度が高くなる。その強度は丸太と同じというのが以前行ったデータでわかった。今皆さんには芯持ちの平角などはかなりの精度で推定できるということはお伝えできる。(池田)
・
【質問】含水率計測器は3種類使用してもらったがバラツキが多かった。その誤差は補正するとのことだったが、補正は必須なのか。(司会)
・JASの認証工場においてはその差を明確にして、それに基づいて水分グレーダーを使っていいという事になっているので必須である。製材工場においては正しく水分計を使っていても、水分傾斜があるため、全乾法との値に差が生じる。よって、水分計で15%以下だったとするとSD20を担保するといった使い方をするし、そうしないといけない。実際に出回っているものを測る時は補正をせずに絶対値のみを確認することもあるようだ。そこはどうかと思うが、建築事務所が正しい指示を出した方がいいかもしれない。JAS製品のSD20といったら全乾法で20%以下である。水分計で測定するものではない。JAS製品はきちんとした性能を担保することにおいて価値があるし、生産工場には義務がある。(河崎)
・JAS製材だったら含水率の規格がされていると思うが、保存によって含水率が変わってくるという話があったが、現場で確認するとしたらどれぐらいの割合を確認したらいいか。(司会)
・現場で確認は難しい。制度上、製材工場は出荷時しか担保しないということなので、実際は建築現場で材料検査する時に全乾法で推定する方法はない。よって、途中の管理が悪かったら話は別だが、信用するしかない。流通に問題がある場合はJAS製品の認証工場も知らないということになる。建築の立場だと建築現場で施工する時に何%かというのが問題だが、JAS製品ではそうなっていない。その証拠としてSDは仕上がっている。それはそのまま使えるがDはこれから加工するもので寸法も変わるのでD表示となっている。その場合は最終的な含水率は担保していない。乾いた箇所を削って、中の含水率が高い所を測定させる場合もあるのでSDとDはきちんと使い分けなければならない。(河崎)
○討論1:木材の乾燥スケジュールについて
①芯持ち材を乾燥するときの留意点
・芯持ち材の場合かつては背割りを長年やってきた。それが日本の技術だった。桂離宮を作る時に工事が3回あって、前期は背割りなし、中期にちょっと背割りが出てきて、後期になると完全に背割りとなった。建築の立場ではその頃に背割りが出たのではないかという見解である。乾燥の分野でも色々議論してきたが結局よくわからない。法隆寺の柱に背割りはなく、立派な芯去りから取っていたようだ。宮大工の西岡常一さんは薬師寺の再建をする時に芯去り材を使用されたはず。だから背割りがなくても割れることがなかったと思われる。戦後、法隆寺の金堂が焼けて再建する時にヒノキの芯持ち材を使われたと思う。高周波乾燥という電子レンジの原理で中まで一気に温めることができる方法がある。普通は表面が乾いていって中が徐々に乾いてという乾き方をするが、極端に乾かすと表面に引っ張り力が出て割れるという事だが、高温乾燥だと中まで一気に加熱するので収縮のバランスが良く、割れないという発想で専門家が当時やったが、結果バリバリに割れてしまった。よって、途中から背割りを採用した。精巧な数寄屋の場合も背割りが絶対入っている。最近も住宅用材を人工で乾燥しようとしたのが1970年代中頃以降で、その頃は柱や土台は背割りをしていた。中温で背割りをやっていた。上げても70℃、普通だったら60~65℃ぐらいだった。阪神淡路大震災で木造がいっぱい倒れた。2000年に建築基準法が大改正になって金具工法を使わなければという流れがあり、もう一方ではプレカットで、最初は背割りの方法を参考にしようとしたが、面倒だし集成材はそんな事は不要ではないかという流れもあった。建築の方から芯持ちで背割りなしで材面割れがないものをくれと言ってきたが、木材の方からは不可能だと判断した。木材表面部分は収縮があるが、中は縮まない部分があるので表面を割ることによって木材は応力バランスを取るのが普通である。ただその世界を破らなければならないわけである。集成材は背割りがないだろうから使うと言われると困るので研究者が考え抜いてできたのが恒温器でこれを使うと熱弾性という性質を利用して材がいくらか伸びる。伸びさせれば1(半径方向):2(接戦方向)の収縮率が相対的に言うと変わる。1:1.2で済むかもしれない。熱を使えばこう言うことが可能である事がわかってきた。では温度をどこまで上げたらいいかというと80℃とか90℃程度だが、それだけではだめで、芯持ちで背割りがなく表面を固めて中を乾かす高温セットというのが出てきた。表面にドライングセットがかかっているので材面割れがない。伸びるのを伸びない状態で止めているので応力的には常に圧縮だから断面は割れない。だがそううまいことはいかない。表面は圧縮がかかっているが中は自由に収縮しようとする。そうすると内部割れが起きてくる可能性が出てくる。全部ではないが、極端にドライングセットをかけると内部割れが生じることになるが、今現在流通させていかなければならないものとしてはやっぱり背割りがないものがKD材では求められる場面が多いので、高温セットをいかに上手に使っていくかという流れになると思う。一方天然乾燥が許されるなら、背割りを採用すれば良いと思う。天然乾燥で背割り入れずにやろうとしても材面割れが100%起きる。収縮は変わらないので、背割りを入れたら背割り面以外の3材面は割れが出ない。それは管理次第で天然乾燥でも管理すれば背割り面以外に割れは出ない状態のものは作りえる。(河崎)
【質問】天然乾燥の注意点はあるか。屋外に置きっぱなしで良いのではないかというイメージを持っている方もいるが。(Hさん)
・天然乾燥というのは放置することではなく、それなりに管理しなければならない。もちろん桟の積み方から始まり桟を積む場所の風通しや日当たりなど考慮しなければならない。また地面からの影響で上下の乾き方が異なるといけないので、少なくとも30㎝、できれば50㎝くらい上げて積み出すことが大事である。もちろん人工乾燥でも同じだが、桟木の位置をきちんと入れないと曲がってしまう。桟積みをきちんとやり、置き場所も風通しが四方向かという事も考えないといけない。屋外で雨ざらしは良くないし、屋根をかけないと傷む。日光を浴びすぎると紫外線劣化は必ず起きるので良くない。また、濡れて乾いてを繰り返すと乾きにくくなる。乾湿繰り返しがいいという人もいるが私は信じていない。乾かす事を工業的にやるのだから、やはり生産として成り立たせないといけないし、使う側も同じ品質のものを出さないといけないので、やるべきことをきちっとやっていく事が重要である。放置しておくというのは天然乾燥では決してない。丁寧にやる所は大物であれば外で半年くらい置いておいてローテーションを組んで時々天地替えをして、その後倉庫に入れて次のステップにうつる。倉庫の中でも仕上げはより含水率が下がらないといけないので、倉庫の中でもより乾く所に置いて仕上げると実際にやっている所がある。県内で赤松の梁桁をやっている所でそこまでやっている所がある。天然乾燥というのはナチュラルだが放っておくのではなく人手が加わって理屈が通っていたらキルンドライ(KD)じゃないがアーティフィシャルな一種人工的な人の技術が注ぎ込まれた方法と捉えてもいいと思う。(河崎)
③スギとヒノキの乾燥スケジュールの違い
【質問】スギとヒノキの乾燥スケジュールも人工乾燥では違ってくるのか。(司会)
・もちろん違っていて、樹種が違うということは何が違うかというともちろん組織構造も違うが、一番違うのは比重である。それと初期の含水率が同じ樹種であっても差がある。樹種特性というのがあって、スギとヒノキを比べると一般論として言えば、ヒノキは芯材含水率が低く、35~40%である。偏材は150%くらいある。一方スギは芯材が低いもの高いものあるが、低いもので60~70%、高くなると150%とか、黒芯系になると200%超えてくるものもあって、偏材はほぼヒノキと変わらず150%超えてくるというレベルである。また大事なファクターとしては乾かす対象の厚さであり、厚さが倍になったら乾燥時間は3倍から4倍になる。同じ形状のものでも最初の含水率が違えば大きく違ってくる。もう一つ材質的なことがあって、細胞と細胞の気孔の密度等、スギの場合は偏差が大きい。スギとヒノキは、全く異質なものとして対応した方がいい。初期含水率分布で言うとヒノキのバラツキはスギほど大きくない。スギは含水率にバラツキが大きいため、一つの釜で乾かすのはとても難しい。よって、扱いやすさという点から言えばスギの方が難しいと思う。(河崎)
・生材含水率だが、特にスギは品種によって全く異なり、赤芯・黒芯という芯去り種を使っている方もいると思うが、重量選別で同じ寸法の木であれば重たいのは乾きにくいことは間違いないが、「一釜分500~600本重たいヤツだけ集めてください」というのは無理。揃えるまでに一週間ぐらい外に置いておくというのも大変。今の一番多い乾燥スケジュールでは一晩4セットだが、黒芯だけ40本集めたものは釜から出した後の養生期間を長くして、赤芯は短期間で加工しようかというスケジュールだと後の扱いの区別がつきやすくなる。品質管理としては黒芯の養生期間を少し長く、そうでないものは短い期間で仕上げられる。その時一バンドルの中が赤芯・黒芯色々混じっているとなかなかやりにくい。最近は一釜分同じ種類を揃えるのが難しい場合はバンドル単位でやったらどうかと伝えている。点火もそうだが、乾燥温度が高くなると収縮率も大きくなって曲がりやすくなる。その曲がりを抑制して製材寸法を小さくする。それと木の桟積みだと上下に凸凹があってバンドしたら桟積み間隔がずれる。アルミ製穴あきスパイク桟木(池田さん考案)を使えば思い切ってずらそうとしても動かない。そういう点ではこれを使っている所が熊本県では10社くらいある。わかりやすいのが長材を5本ぐらい入れるところを両端と真ん中3本入れるとかなり止まる。桟木も非常に重要で、熱さを管理しておかないと曲がったり、抑えがきかない所があるとそこが横方向に曲がったりする。高温乾燥だと桟木が傷みやすい。(池田)
・芯去り材だと高温セットしなくていいのか。アルミ製穴あきスパイク桟木の効果とか。(Hさん)
・芯去り材の方が曲がりやすいのでそれを抑えるには効果的かと思う。乾燥前の桟積みから出炉して養生までして動かさず、ばらさないでずっと積んだままで仕上げ加工する直前に外すようにする。(池田)
・熱いときに開放すると曲がるのでそのまま固定した方がいいということか。(Hさん)
・そのまま時間を置いた方がいい。この穴は風通しをよくするためである。桟木跡が少し浅くもなる。歩留まりも結構効く。特許申請した時に、経済効果がいくらぐらいか聞いたら、全国だったら何百億になると言っていた。(池田)
○討論2:SD15問題について
・通常流通している一定の材料であれば供給は可能である。(大林社長)
・その供給に関しての問題点はないか。山口県内ではトータルの供給能力的にも量は何とかなると聞いたが。(司会)
・山口県自体が九州や岡山に比べると素材生産量が決して多くないので、あくまで原木の素材生産次第になってくると思う。例えば6mのものはなかなか出ないとか、7、8mのものも県内ではなかなか出ない。全てを山口県内で補うのは難しいと思っている。(大林社長)
・私のところは小さいですがJAS工場をやっていて、15%以下というのはできない数字ではないと思う。スギのSD15はちょっとキツいように感じる。取り合いになってしまう。大林さんも言われたように素材の生産能力も低い県なので、どれだけの需要があるかというのもあるが、木材の需要をどんどん高めていこうという動きは嬉しいが、今のところ対応する能力がない。今、山口県では県産材使用の住宅に対して補助金が出ていて、まあまあ高いハードルの条件での補助金だが、内装の木質化とか結構出る。行政の方がある程度プレゼンして、入札かけてどこかの工務店が受注して我々が見積りを出すが、やっと決まってスタートという時には納材までの期限がそんなにないというのが実情である。だから実際のところは早めに寸法が出て決まっていれば、ある程度は出せるが、ギリギリになって相見積もりをするケースが出てくる。県産材指定でやってもらうのは大変嬉しいが、作るにあたって乾燥期間を計画的に設定しづらい。私の意見だが、木材の個別発注を行政の方から事前にしてもらえれば、結構スムーズに納材できるのではないかと思う。(今井社長)