令和4年度「地域における非住宅木造建築物整備推進事業」による第二回WS


12月19日、令和4年度「地域における非住宅木造建築物整備推進事業」による第二回WSを、京都大学生存圏研究所の林知行先生をお招きし、開催させていただきました。

林先生からは「目からウロコの木のはなし」というタイトルで、「切り株の年輪の広い方が南」や「正倉院の宝物の保存状態がいいのは校倉造りの効果」等、広く常識と捉えられている間違った知識を、科学的根拠をもって、何が正しいのか、まずご説明いただきました。先生が教鞭をとられた秋田県立大学で授業後、学生にアンケートをとられたところ、「木の伐採=森林破壊」であると思っていた学生が大半であったとのお話は、世間一般のある意味「常識」となっていると推察される「非常識」であり、当会の活動においても考えなければいけない問題であると感じさせられました。

その後、次のような内容のご講義をいただきました。

  • なぜ木を伐って使わなければならないのか
  • 木を伐って使うことの効果
  • 樹木の「ここがすごい!」
  • 木材の「ここがすごい!」
  • 木質材料を使うときに注意しなければならないこと

詳しい内容を知りたい方は、先生の著書である、木材・木造業界人を対象の「今さら人には聞けない木のはなし」(日刊木材新聞社)、「新今さら人には聞けない木のはなし」(日刊木材新聞社)、大工・工務店・建築士を対象の「プロでも意外に知らない木の知識(学芸出版社 2022年4月15日発行)、森林科学科3年生向けの「フォレストプロダクツ」(共立出版 2020年6月末発行)木材・木造の専門家以外の方々を対象にした「目からウロコの木のはなし」(技報社 2020年3月末発行)を、ご購入いただければと存じます。

講義の後、ディスカッションが行われました。一部の内容を、以下にご紹介させていただきます。

司会:林先生の講義について何かご質問等あればお願いしたい。

山本:目からウロコの話が多くて、まずはインプットをしっかりやらなきゃいけないと思いながら話を聞かせていただいた。初歩知識が乏しく全然知らない話が多くて何を質問していいかもわからないが、木が生きている、いや実は死んでいるという話など特に興味深く聞いた。これから勉強していきたいと思う。

司会:資料からキーワードをいくつか拾ってみた。まずはガセネタという所から。私が最近驚いた最大のガセネタは、法隆寺の回廊の柱で、エンタシスと学んでいたが実は違ったという事だ。ここから見える防府駅の三本の矢(モニュメント)もエンタシスと思っているかもしれないが全然違うらしい。来年度予定している講師の藤森先生の本に書かれている。学校や修学旅行のバスガイドさんに教えられたがあれはいったい何だったんだと驚いた。中高で叩き込まれた知識が違っていたと聞きショックを受けるが、その辺の見分け方はあるか。先ほどSNSが課題だと言われていたが。

林 :よく出てくるガセネタのパターンは大体私の本やツイッター、ブログ、フェイスブック等あちらこちらで書いている。新聞に書けないようなネタはそれらSNSに書いているのでそちらを見てほしい。

司会: 最近木造ブームということで、木材・木質材料のコーディネーターがこの分野では必要だと言われているが、逆にそういった人達がガセネタの伝道師になってはいないかという不安がある。

林 :基本的に私の知っている人達は大丈夫な人達だ。変なことを言っている人は私の周りにはいないようだ。

司会:接着剤は体にはよくないという理由で、集成材を避ける一つの理由になっているみたいだがその辺りについて何か。

林 :接着剤業界も、☆☆☆☆という基準が20年前ぐらいからできたので、業界側は全然心配していない。ただ過敏症の人は、仕方ないと感じる。

司会:設計者が集成メーカーに行って少し感じてそれから使わないことになったパターンもあるようで、工場と実際できた建物内では、状況が違うはずだが、一緒くたになっているようだ。

林 :もちろんそんなこともあるだろう。

司会:そこに誤解があるのではないか。

林 :あるだろう。集成材の肩を持つわけではなく、無垢材を使いたければ使ってもいいのだが、私が主張したいのは全体のパイを広げるということをいつも言っている。どうしても無垢材がいいならそれで構わない。全体のパイが広がるなら色んな選択肢があって構わないし仕方がない。

司会:最近、1回分解して、接着剤を使って再構成した材料をエンジニアードウッドだという説明を聞いたことがある。

林 :それは木質材料のことをエンジニアードウッドだと勘違いしている。ウェブで検索すると、そう出てくるのでそれが原因だと思われる。我々の業界は、丸い物を四角にして「はい製品でございます。」と丸い物を四角にしてそれで金儲けしていると揶揄されるが、きちんと身体検査してこの構造材料がどれぐらいの性能を持っているのかということを明示しなければならないのが本来のエンジニアードウッドである。ところが大学の先生、特に建築の先生は勘違いしてそのまま書いてしまう。ただそれも20年ぐらい前の話であり、この頃ははっきり言ってエンジニアードウッドという言葉は、あまり使われない。プレカット工場では今も構造用集成材にEWと印字している工場もあるが、構造用集成材、構造用LVLという表現がされるようになっている。

司会:言葉の整理として、エンジニアードウッドとエンジニアリングウッドという言葉があるが。

林 :エンジニアードウッドは英語だがエンジニアリングウッドは和製英語です。日本にエンジニアードウッドという言葉が入ってきた時にある木材会社の方が間違ってエンジニアリングウッドにした。ただエンジニアリングウッドの方がエンジニアリングプラスチックなどの言葉があるので、日本語として皆わかりやすかったのだと思う。ほんとに人によって解釈の違うような言葉は使わない方がいい。

司会:構造用製材の機械等級区分は、エンジニアードウッドと言っていいか。

林 :それは入れるべきだと思う。人によっては違うという人もいるから議論しても仕方ないが。

司会:2010.10月に施行された「公共建築物等木材利用促進法」が施行されて以降、どうも製材の方に力点がおかれていて、集成材は劣勢にあるような気がする。

林 :その話もしようと思ったが時間が無くて講義からは省いた。「公共建築物等木材利用促進法」が出来た時に実は私は深く関係している。例えば製材はJASの製品だけにするかといったような議論をしていた。基本的に、日本の木材の自給率が低かった頃、このままだと日本の林業はもう無茶苦茶になってしまうという危機感が背景にあった。2025年までに自給率を50%にしようという「森林・林業再生プラン」が、「公共建築物等木材利用促進法」の前に出た。それはまさに日本の林業を救わなければという思いがあった。「公共建築物等木材利用促進法」は「森林・林業再生プラン」をサポートする位置付けだった。基本的に考え方としては日本のスギを何とか救わないといけないという思いがあった。

司会: 構造用製材については、品質JAS認証を受けている製材工場が少ない県では、県単位で独自に規格を設定しているところも見られるようだが。

林 :公共建築物にはそれはちょっとまずいのではないかと議論したが、今はあちらこちらでJASの工場も増えてきてじわじわと進んでいる感じを受けている。

司会:次のキーワード、「木材利用は環境にやさしい」という説明をしてもらったが、山から出てきた丸太が、すべて製品化されて炭素ストックされるわけではない。山から出てきた丸太が製品化される歩留まりはどれくらいか。

大林:乾燥材が主流なので50%を切ることが多いと思う。45%ぐらいではないか。

司会:残った55%はどうなっているかという話があって、そこで燃やしたりすると二酸化炭素が出ていくがそういった状況で果たして環境にやさしいと言えるのかという質問を受けることがあるが、その辺り、どのように説明していけばいいのだろうか。

林 :製材での歩留まりは5割程度だが、集成材だと25%~30%ぐらいだろう。しかし製品化されなかった鋸屑などの木材も、畜舎の敷材、敷料とかで使用されている。また燃焼させるとしても、カーボンニュートラルという観点から、化石燃料の代替えとすることに意義がある。

司会:木材の製品化の段階で排出される二酸化炭素量が、コンクリートや鋼材と比較すると少ないというデータが、森林白書に掲載されているが、データは1997年のもので、人工乾燥の工程での二酸化炭素の排出量がカウントされていない気がする。

林 :その件は、データ提供者に確認いただきたい。集成材の歩留まりが低い点は環境負荷という点で不利に見えるが、板の段階で乾燥させるので、人工乾燥時のエネルギーが柱角のような製材よりもはるかに少なくなくてすむ。ある程度の断面になった場合は、集成材に利がある。いずれの場合も、人工乾燥時に必要なエネルギーは、化石燃料ではなく、木質バイオマスで得ていくことが、環境負荷という観点からは重要。

司会:建物を長く使うということは、炭素固定という観点から大事だということになるか。

林 :耐久性は、講義でも取り上げたとおり重要である。

司会:木質材料が屋外暴露されているような建物をどう思うか。

林 : 10年後にはどうなっているか、非常に心配である。1987年に規模の大きな木造建が建ち始めた時期、耐久性に関するノウハウがあまりなかったため、数年後、不具合を生じたものがたくさん見られた。

司会:私も当事者かもしれない。

林 :やはり野ざらし、雨ざらしはやめてほしい。もしそういった場所に木質材料を使う場合には、きちんと防腐処理なりそれなりに考えて作ってもらいたい。

司会:ウチではこんな事をやっているという方はいないか。この会としては佐波川の森を守らないといけないのでぜひご協力を。

設計者K:今日の話を聞いていて本当に目からウロコの話だったが、小中学校の頃から正倉院の話や木は水分があるから反るんだとかの話が全て嘘だったと聞き、自分が今まで聞いてきた木の話をどこまで信じていいのかわからないという状況だ。例えばこういう話は学校のどの過程で話をされるのか、子供たちもたぶん同じことを伝え聞いているのではないかと思うが、教育の中でちゃんと教えていく事はできるのだろうか。

林 :教育内容は学校教育法の指導要綱で決められているので、あまり余計な事を教えている時間はないと思う。木材系の大きい団体に頑張ってもらわないと誤解が解けないままである。木材利用に関して皆さんのように真剣に取り組んでいる人が多いので徐々に学生からのレポートの中身が変わってくると期待していたが6年間やってみてもずっと一緒だった。

司会:法律が昨年覚えられない長い名前に変わって公共建築物から民間事業者の建物が対象に変わったのだが、これがどういう方向に伸びていくだろうか。

林 :補助事業等での提案を見ていると、やはり木だけで頑張るには限界がある。縦方向に伸びると、耐火の話も絡んでくるし、混構造の話が出てくる。ここ4、5年、大手ゼネコンや住宅メーカーなどが真剣に取り組み始めており、このようなメンバーが主力になっていくと思われる。

司会:むしろ私は横へいけないかと思っているが、こちらの方向についてはあまり進んでいないような気がする。

林 :技術的なことはずいぶん真剣に取り組まれるようになってきたと思うが、木材独特のいやらしさ、面倒くささを考えると、コーディネーター役が必要になってくる。特に地産地消みたいな話で裏山の木を使ってくれというような話が出てくると、すぐに材料は集まらないので、木材と建築の両方に精通した人が間に入って、コーディネートしてくれないとなかなか進まない。その辺りを県に2、3人、育成する必要があるのではないかと強く思う。

司会:秋田県鹿角の道の駅の建築にあたっては、コーディネーター役はいたのか。

林 :いた。著名な設計者が木高研を訪問され、所内で開発が行われた円筒LVLを使ってみたいという話になった。

司会:円筒LVLの説明をお願いしたい。

林 :スギの単板をトイレットペーパーの芯のようなやり方で円筒型にしたもの。秋田県内ではよく使われている。今後も使ってみたいという要望をいただいている。鹿角の道の駅では、木高研の足立幸司先生がコーディネータ―となり、実験も行われた。

司会:秋田県の話をお聞きしたい。秋田県内には国際教養大学の寄宿舎をはじめ、次回講師で来ていただく西方さんが、設計された建物がいくつかある。能代市内の二ツ井の道の駅は約3000㎡の建物である。これは山田憲明さんが構造設計されていて、一部に秋田のスギを使った耐火構造の柱も使われている。能代、大舘の製材所が協力して製材加工して建ったということだが、先生の評価はいかがか。

林 :このプロポーザルの審査委員長だった。その時4社くらい出てきたが、地元の人で、そんな木材をどうやって集めてきてどう加工するのかということに、設計者自身がものすごく詳しかった。だから市側としても市内の木材を使ってほしいという理由もあって設計者が選定された。やはり西方さんは長年、木造をやっているので、どうやってどこにどう注文したらいいのかなどよくご存じだった。単にデザインが機能的ということだけではなく、木材入手方法やコストなどしっかり考えておかないとうまくいかないと思う。

司会:次回、西方さんにどのような点をうかがったらいいだろうか。

林 :断熱性能もまた、聞くべきポイント。

司会:ところで、二ツ井の道の駅では、竣工以降、関与していた会社が2社ほど店仕舞いをしてしまったが、一方では、能代市に中国木材が進出する。これからの製材業はどの方向を向いていくのだろうか。

林 :中国木材の進出は、「黒船」といった感じか。既存の人達は自分達の素材を持っていかれるのではと心配しているが、能代で200人ほど雇用が増えることはすごいこと、地域産業の活性化という面では、ウェルカムではないか。地元の製材の関係者の中ではダメージを受けると捉えられている面もあるが、うまく利用して木材全体の需要を増やしていくような方向へ持っていけないかと思う。

司会:中大規模建築物の計画があがっても、地元の製材所は報われない状況になるのではないかと危惧している。山口県内でも現在、中大規模木造建築の計画があるが、今後、住宅以外の建物に対して、どういった見方をされているかお聞きしたい。

I製材:大規模な木造建築物を作るのに集成材とかLVLとかCLTとか使うのは、ウチでは製造していないが、時代の流れだと思う。ただ親しい山林業者から、いわゆるA材は出所というか役目というのがないのではないかとよく言われる。CLTなどに使うのはBやC材で十分だと思う。先生が言われるパイを広げるというのはわかるが、A材利用についてはどう思われるか。

林 :A材利用に関しては、3年ぐらい補助事業において企画・検討が行われているが、なかなか答えが見いだせていないのが現況だと思う。

司会:その話でよく私が思うのは、集成材の方にA材を回してもらわないと具合が悪いということ。B材だけで集成材を作ると、強度性能的にはうまくいかない。

林 :集成材はそうだ。CLTは大丈夫だと思う。

司会:現在進行中の武道館は、地元木材関連企業として、期待しているものはあるか、あるいは困ったなと思っているか。

今井:何等かの形で携わることになるのではないかと思うが、どういう物ができるかは、たたき台がある程度示されているものの、まだ白紙の状態だ。仮に500㎥ぐらいの材積を望まれた場合、製材だけでとなると、県産材だけでは かなり厳しいかもしれない。

司会:O製材さんのところでは、県内でこういった建物が増えつつあることをどう思われているか。

大林:当然期待はしている。ただ無垢材だけで全部やるのは無理があるので、やはり集成材とかCLTを積極的に利用してもいいのかなと思う。製材する側としたら、先生の言われた通りCLTは多少、質が低い材料が入っても使ってもらえるので楽なのだが。無垢材の場合は大規模建築になると見えかかりとなるものも結構含まれるので、節が少ない方がいいが、長物で揃えるのは結構大変になるので、やはり適材適所に使っていただけるとありがたい。

司会:中大規模建築物の木造の設計は、都市圏の設計者が受注しているケースが多いと感じている。次回、西方さんをお招きしている理由は、地元の2つの設計集団がプロポーザルでガチの戦いをしていて、どちらかが受注しているという状況を尋ねたいと思っている。地元の設計者の在り方、地元の製材所、集成メーカーなどやゼネコン、市や地元の方々に向けた地元に根差して木造を進めていき、地域産業を活性化させ皆がウィンウィンの関係を作れるようにしようというのが、この会の目的なのだが、最後に先生のご経験、知見から何かアドバイスをいただけないか。

林 :私は秋田や京都の府木連の人達と仕事をしているが、やはり地域によって、状況はものすごく違うと思う。そのため、このような質問はよく受けるが、きちんとした正解がなかなか見つけられない。やはり頑張って引っ張っていくリーダーがどれだけいるかということだと思う。秋田だと少子高齢化でどんどん人が減っていくことにより、知の集積も少なくなってきている。だからリーダーに出てきてもらわないとうまくいかないといつも思う。岡山だと銘建の中島社長みたいな人、鹿児島だと山佐木材の佐々木社長とか地域を引っ張っていくグランドビジョンを持ったような人を育てないとダメかなと思う。佐々木社長は一代で、他の人が考えないようなことで地域を盛り上げてくれた。福島の佐川さんも、他の人が考えていないようなことをやってきた。製材の乾燥などいい加減にやっていた時代にきっちり乾燥をして含水率を表示してヤング係数まで測っていて、「何だ、この人は!」と感激した。こんなに意識の高い人もいるんだと思って驚いた。奇想天外な考えとは言わないまでも、人が考えないようなことを一人でなくてもグループを作って、その地域に合わせたアイデアを考えるといいと思う。だからこの会はすごく応援したくなる。

また設計者はいわゆる建築家と一般的な構造屋と違うし、建築家の人とはあまり付き合いがないからよくわからないが、やはり木材知識のレベルアップが必要であろう。書籍はそのつもりで書いている。今日参加されている方には「プロでも以外に知らない木の知識」がおすすめ!

司会:今日は山口県や市の方も参加されているが、その方達も同様か。

林 :公務員の方は異動があるので、すごく積極的に発言していた人が、部署が変わるとかいうのが厳しい。今大舘の人を育てているがもう少しで異動になりそうだから心配している。培ったノウハウを次の人に引き継ぎをやっていてもらいたい。

司会:次回の第3回WSは西方さんに来てもらうが、秋田のある意味キーマンである。実際能代市は1995年以降、小中学校の校舎を木造に建替えていて、その中の半分は製材を使う西方さんがやっていて、残り半分は他の設計集団がやっている。2025年に建築物省エネ法が改正されるため、さらに高断熱、高気密化に動いていると思うが、そっちの分野でも西方さんは有名な方で「外断熱は危ない」という本が3万部売れたそうだ。特に設計されている方には大きなテーマとなるのでぜひ参加いただきたい。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です